拘らないというところから出発する拘り

さて、でも、その職人としての"拘り"というところについては、ひとつ、注釈が必要になるでしょう。野村製作所の職人たちの拘りというのは、世間一般にイメージされる、少しマイナスイメージの付加する拘りとは少し、いいえ、かなり異なっているのです。


まずはお客様のご要望を全て伺います

拘らないというところから出発する拘り

「財布はこうでなければならないとか、皮革製品はこうあるべきだというような、拘りや先入観をいったん無しにして、まず、お客様のご要望を最大限に伺うんです」
と細野さん。木村さん、冨田さんも強く大きく頷きます。社長が続けました。
「"匠"とかって皆さんおっしゃるけど、そういう大それたことじゃぁないんです。私たちは、お客様の要望に忠実である、ただそれだけなんです」
相変わらずのご謙遜ぶりですが、更に社長は、
「"なんでもない"、それが私たちです」
と表現されました。深いです。OEM事業で大成し、トップを走り続けているからこそ発せられる言葉でしょう。自由と呼ぶにはまた少し違い、自由よりも自由で幅が広いという感じ。"なんでもない"、宇宙の真理さえ突くかのような含蓄のある言葉です。

拘らないという拘り。縛らないという添い方。中庸である関わり方。
顧客ごとに真っさらに戻って、真っすぐに向き合い、真正面から応えていくのです。

それこそがプロフェッショナルの極みの域ではないでしょうか。柔軟にフレキシブルに客の要望を取り入れ、物理的技術的に可能なところとのサジ加減を探りながら測りながら形にしていくわけです。その最終形が客のイメージと絶妙に合致した時の達成感たるや、当事者でなければ味わえない歓びの骨頂でしょう。


皮革製品との出会いが人生を変えた

拘らないというところから出発する拘り

ところで、上背があり、シンプルながらさらりとお洒落な細野さん、キーホルダーや財布などは当然ながら、ふと見ると、手帳カバーも良い風合いの出た皮革のものを使っていました。

ご自身がすっかり皮革の虜とも言えるべきですが、その細野さんも最初から野村製作所を訪れたわけではなかったのです。細野さんが最初に務めたのは、あるデザイン事務所でした。ところが、どうも肌に合わず、転職を考えていた折、皮革製品との偶然の出会いがあったそうです。その感動の衝撃から皮革の魅力に取り付かれ、どうしても皮革を扱う会社で働きたいと願って探し当てたのが、この野村製作所だったとのこと。

とはいえ初めのうちは業者対応や事務的なことなどのみを任されていました。暫くして、先輩職人からの働きかけがあり、念願のサンプル担当へと配属になったそう。その紆余曲折や下積みがあったからこそ、現在、皮革を直接、自身で形にしてゆけるという喜びが、人一倍感じられるのでしょう。


常にMOREを追い続ける姿勢

拘らないというところから出発する拘り

そこで、皆さんにお願いしてみました。
「読者の皆さんに是非、一番のお気に入りアイテム、これぞ、というのを紹介してください」
すると返ってきた応えが一様に、
「それが......、ないんです」「まだないです......」
社長も声を合わせておっしゃいます。
「一生の間に、『これは本当にいい財布だなあ』っていうのに、会ってみたいです。他社のでも構わないから、一生の間に、ひとつ、出会えたらなあと思います」

またしても深い。皮革製品をよく知り、愛しに愛すればこそ、いつまでもどこまでも"これでよし"が来ないのでしょう。
優勝しても、金メダルをとってもなお、上の記録を目指し続けるアスリートにも通じるものを感じます。そう、まさに、「ザ・スペシャリスト」です。


人材育成にも意欲的

拘らないというところから出発する拘り

また、そのスペシャリストとなるべき新しい人材の育成にも力を入れています。
社長の生まれ育った栃木県が日本でも有数の皮革の産地であることもあり、その栃木に、2015年6月、職人育成の為の施設を設立した。創設より育み築き上げてきた伝統技術や拘りを後世に伝えてゆくことを目的にしています。それ即ち、更に高い品質のモノ作りへと繋がるだろうという考えから。

そして面白いことに、この門を叩くのは、細野さん達のような青年ばかりではないそうです。大手企業を5〜10年早期希望退職して第二の人生を歩もうとする、50代からの中年層が多く在籍しているとのこと。非常に興味深い。なんと素晴らしい人生、なんと素晴らしい企業でしょうか。

2012年から自社オリジナル製品の製作を手掛け始めたこともあり、
「やがては、栃木営業所オリジナルの商品をということも視野に入れています」
と、社長は目を輝かせていました。


お話を伺った人

お話を伺った人
野村俊一
1951年生まれ。1923年東京浅草で創業した革小物製造業の家に生まれる。生まれも育ちも現在の東上野。2002年により4代目取締役として就任。


お話を伺った人

(写真右)冨田隆弘・・・1975年生まれ。2008年7月に入社。サンプルの製作と生産管理業務を行う。(写真中央)細野悠介・・・1982年生まれ。2006年に入社し、革の管理や裁断などの担当業務を経て、2011年よりサンプル業務に携わる。(写真右)木村淳・・・1986年生まれ。2012年に入社し、サンプルの製作と生産管理業務を行う。

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