履き心地とファッション性の両極からまっすぐに進みぶつかる地点を探る挑戦

靴に関しての一般的な誤解を払拭する

履き心地とファッション性の両極からまっすぐに進みぶつかる地点を探る挑戦

「日本の一般的な靴には、大きな特徴があるんです」
今回吉見さんの言う「特徴」というところには"問題点"という意味が含まれます。

それはまず「小指が当たること」。

「小さいサイズだと小指が当たって痛いので、サイズを1サイズ上げた」、そんな経験をしたことがある方は多いのでは? 小指が当たるのは、主に靴づくりにおいて靴型のシルエットを重視したがために起きていることが多いそうです。

「皆から一様に『小指が当たる』『窮屈だ』などの意見をもらい、それではと小指の部分に肉つけをするなど様々な方法を試してみましたが、フィッティングとルックスの2つの点から納得できるものはなかったんです」と長年メーカーや工場にいた吉見さんは言います。

そしてもう一つは、「かかとのゆるさ」だと言います。

「足にぴったりフィットしている靴でも、芯材が固かったりすると靴ずれが起きやすく、靴ずれが起こる靴=良くない靴と敬遠されてしまいがちです。そのような理由から、一般的な大量生産の靴では、靴ずれが起きにくいようにかかとがゆるめに作られているのではないかと考えられます。」

最初から柔らかすぎる芯材を使っているから履くほどにそれがまたゆるくなっていく。「それは本当に足にとって良いことなのか?」という疑問が吉見さんのなかに芽生え始めます。

吉見さんは、昔から続けてこられたことに対してのリスペクトをきちんと持ちながらも、本当にそれが正しいのか一度考えてみたそうです。

「一旦、それをやめてみる、壊してみる、逆に進んでみる、ということをしたんです」


制限と理想の間(はざま)

履き心地とファッション性の両極からまっすぐに進みぶつかる地点を探る挑戦

ところが実際につくってみると、「小指が当たらない靴」、「履き心地の良い靴」というのは「かっこよくない」という結果に。ここから吉見さんの戦いは始まります。

"足に優しく格好悪い"の極から、"足には悪いが格好良い"の極まで線を引き、両方から少しずつ歩み寄っていくという作業を繰り返しました。中庸でバランスの取れたちょうどよい塩梅のところを探る作業です。

そこには、コストや生産性といった制限も加わります。
例えば、多くの大量生産の靴の靴型は、足の甲の部分が左右対称に近い形で成型されています。その靴型を使っておこされる型紙、そしてその型紙を使って製作されるアッパーといった、その後につづく工程が作業しやすくミスが出ないように設計されている。これは大変素晴らしい事だと思います。

「でも、足の甲って左右対称じゃないんですよ」

吉見さんはさらりと説きます。確かに言われてみれば、甲のどこをとっても左右対称の個所などありません。それなのに何の疑問も持たずそのような靴型を用いて製作された靴を履いてきたことが不思議にさえ感じます。そうは言っても、これまでワンサイズにつき一つの型でよかったものが内側と外側に別々の型を使うとなると、相当数の型代がかさむことになります。また、工場での対応も型が増えれば、それだけミスが起こる原因となります。

しかし吉見さんは、コストよりもユーザーの足に少しでもフィットしたものをという希望を追求すると、多少のリスクを払ってでも譲れなかったところなのだと吉見さんは言います。


行き着いた、オーダーのような既製靴

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中庸を探る作業を遠してたどりついたのが、現在の「限りなくオーダーに近い既製靴」です。
でも、そこまでユーザーの足に拘るなら、なぜ「ユーザーの足の型に合わせてつくることができる」オーダー靴というところに収まらなかったのでしょうか。
その一番大きな理由は金額。

「自分の足に合わせた靴をオーダーする金額を払える層は限られています。そうした一部の層ではなく、様々な人に足に負担が少ない靴に触れて欲しかったんです」
RENDOの設定した4万円という価格は、靴づくりの現場を長年経験してきた吉見さんが考えるギリギリの設定なのだそうです。

この絶妙な価格設定が、オーダーするほどではないけれど少し靴に拘っている層や、これまで靴には無頓着だったけれど少し年齢を重ねてきてもう少し気を遣ってみようかと考え始めた層など、幅広い層に需要を生みました。加えてこれまでオーダー靴を求めていた層からのニーズも生まれているのだとか。

「その様々な層のお客様から情報を得られるのも大きな財産です」
多様な顧客層のユーザーが浅草の実店舗で直接の声を聞かせてくれます。その声が吉見さんの大きな情報源となり原動力となり、良い循環を生んでいるのです。


直売にこだわる理由

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RENDOが実店舗での販売とネット販売のみに絞って展開していることの理由のひとつはそこにありました。


まず、卸を入れないことで、4万円という制限の中で最大限のクオリティを保つことが叶うということです。


「4万、という金額は貫きたかった、でも、クオリティも下げたくなかったんです」

そして、実店舗での販売は、ユーザーの生の声を直接聞け、コミュニケーションをとることができます。

「足というのは1人1人形が違います。お客様が自分の足の特徴を理解する、その手助けができれば」と吉見さんは力強く言います。


そうした吉見さんの思いがよく表れているのが、無料で行っているビフォアサービスです。

「靴は5mm刻みでサイズ展開しているけれど、実際の人間の足は5mm刻みではないので」
 と吉見さん。
ピタッとしたのが好きで小さめのサイズを購入した人には革を伸ばすサービスを、きついのが苦手で大きめのサイズを購入した人にはインソールで内部のフィット感を調整するサービスをしています。 そのインソールも、つま先部、かかと部、内側、外側など、さまざまな種類が用意されていて、本当にその人その人の足型に合うようにあつらえてくれるので安心です。

RENDOの靴は、硬めの芯材を使用し、フィット感の高いかかとの作りになっています。サイズがぴったりの人でも、足になじむまで時間がかかる場合があるので、希望があればかかと部分を柔らかくしてからの提供も可能なのだそうです。

とはいえ、「万人に合う靴はないので」まずは店に足を運んで試してみてほしいとのこと。そして万一ご自身の足にはこのRENDOの靴は合わなかったとしても、ここにきて吉見さんと靴や自分の足について話をするだけでも大いに価値があるのではないでしょうか。


履き心地とファッション性の両極からまっすぐに進みぶつかる地点を探る挑戦

お話を伺った人
吉見鉄平
1977年徳島県生まれ。大学在学中に、イギリスの「LondonCordwainersCollege」にて靴作りの基礎を学ぶ。卒業後、「東京都立城東職業能力開発センター台東分校」にて技術を磨き、2002年「セントラル靴(株)」に入社、パタンナーとして勤務。2007年に退社後、渡欧し現地の靴工房や工場を視察、またシューズブランドのパターン業務に携わる。2008年「443patternmaking」を設立し、フリーランスとして国内外ブランドのパターン、企画業務を手がける。2013年社名を「株式会社スタジオヨシミ」とし、自らのブランド「RENDO」をスタート。

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